理事長コラム/Column
第4回/省省エネ社会が日本を救う
日本の近代史をひも解くと歴史的な転換が約70年ごとに3度ありました。1度目は1868年の明治維新。2度目は1945年の悲惨な敗戦。3度目は2011年3月11日に起きた東日本大震災と福島第一原発事故ではないかと考えています。
近代とは「成長」の時代の別名でもあります。「多くの利潤」を求めて「より早く、より遠く」へ行く為の「技術の進歩」と「資本の投入量 」、「労働の投入量」の三つの要素の掛け算で成り立っているそうです。しかしながら日本では1985年のプラザ合意という急激な円高政策により成長が限界となり、その突破のために金融緩和や公共事業などを行った結果 、バブル経済を引き起こしました。そして1990年にそのバブルが崩壊し、その後失われた20年デフレ社会に至る訳です。今、また歴史は繰り返しているようですが、そのデフレを突破するためにイノベーションの重要性が話題となっています。1970年代の石油ショック以降のイノベーションのシンボルが皮肉なことに「安全神話」に守られた「原子力工学」であったことは歴史の皮肉以外何物でもないのです。
1970年代初頭に石油危機がありました。70億人いる地球上でたかだか10億人しかいない先進国主導のグローバル経済に対する中東諸国からの反逆と、それに加えて3億年前から地球上に堆積してきた化石燃料をたった200年で食い潰す「近代」に対する警告という側面 もあり、それに対する先進国の回答が原子力発電所の建設でした。化石燃料の枯渇という「有限」に対して「無限」を造り出したはずでした。化石燃料の浪費は「過去」の遺産を食い潰し、福島第一原発事故で放出された放射能による被害は現在に生きる人々だけではなく、土地の汚染、内部被ばくなどを考えると次世代の「未来」をも食い潰すものでした。
今、中国をはじめ新興国は急速に成長しています。欧州が産業革命から400年かけて近代化をしたのに対して、日本は100年で果 たし、中国はそれを20年で成し遂げようとしています。最早先進国はかつてのようにエネルギーをタダ同然で手に入れることは出来ないし、先進国はこれ以上の成長は望めないことを自覚すべきです。さらに先進国は「モノ」が飽和状態となっています。例えば自動車産業では日本は1,000人に対して590台の保有率、1世代に1台に近い。アメリカは1,000人当たり810台くらいなので成人1人に1台所有しています。それに対して中国は1,000人当たりわずか27台。仮に中国が日本並みの保有率となれば8億台のストックとなります。今、中国の大都市では大気汚染で目を覆いたくなるような悲惨な状況に襲われています。
日本はフルスピードで走ったからこそ近代の矛盾にいち早く直面 しましたし、成長することに意味がありました。しかし私たちの社会は成長を望めないはずなのに、意識と体が未だにそれを引きずってしまいます。デフレ脱却、成長戦略、金融緩和、公共事業などの言葉にすぐ騙されてしまう日本人の貧しいサガが悲しいのです。
先進国はみんな少子高齢化になり、年金などの社会保障制度を見ても、成長を前提とする仕組みのまま維持することは困難です。日本では1975年の出生率が2.1で、それからズーっと下落を続け、2005年には1.26まで低下しました。これは近代社会の宿命として労働時間を延ばし、家事労働をすべて女性に任せるということをしてきた「ツケ」に対して「レッドカード」が出生率の低下につながったのでありました。今後安心して子供が産めるような社会にすれば人口増にもつながるはずです。あと20年もすれば若い人が2.0人産んでも良いような社会環境を整備することが先決だったのです。
今後のグローバルな経済と規制緩和の中で成長を目指す人もいます。しかしそれだけでは駄 目で、地域を拠点として出来るだけ食糧やエネルギーを自給自足型で
「省エネ社会」を前提とする生き方、地方に根差し安らかに生きる生き方
というのは、これからのトレンドになります。
エネルギーに関して言えば21世紀型社会とはいかに化石燃料を使わない社会とすることが重要となってきます。新興国に属する50億人の人々に、私たちは化石燃料を使うなとは言えません。ですからこれまでさんざん化石燃料を使って近代化を成し遂げた先進国は化石燃料を使わない社会、「省エネ社会」を用意しなければなりません。例えシェールガス時代が来るとしても、本当のオイルショックはこれからやってきます。第1次、第2次オイルショックは先進国のオイルショックでしたが、今後起きるオイルショックは未だ近代化途上にある国が受けることになります。そういう時に化石燃料を使わない国を日本が作っておけば世界に貢献できるのです。
そういった意味では2009年に時の鳩山首相が国連で2020年までに25%の温室効果 ガスを削減すると表明し「産業革命以来の社会構造を転換し、持続可能な社会を作ることが次世代への責務だ」と強調したことは正しかったのです。しかし彼は私以上の「元祖口だけ」であり、それで終わることなく、有言実行な元首相として行動を起こしてほしいものです。